事故防止防止制度の防止

今日はこのニュースから。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080411-00000035-yom-soci
日航機ニアミス事故の控訴審管制官2人に逆転有罪判決
4月11日15時35分配信 読売新聞
 静岡県焼津市上空で2001年、日本航空機同士が異常接近(ニアミス)して乗客57人が重軽傷を負った事故で、業務上過失傷害罪に問われた国土交通省東京航空交通管制部の管制官、籾井(もみい)康子(39)、蜂谷(はちたに)秀樹(33)両被告の控訴審判決が11日、東京高裁であった。
 須田賢裁判長は「便名を言い間違えるなど、管制官に要求される最も基本的で重要な注意義務に違反し、多数の乗客に傷害を負わせた」と述べ、無罪とした1審・東京地裁判決を破棄し、籾井被告に禁固1年6月、執行猶予3年(求刑・禁固1年6月)、蜂谷被告に禁固1年、執行猶予3年(求刑・禁固1年)の逆転有罪判決を言い渡した。

 ニアミス事故で管制官が有罪となったのは初めて。両被告は上告する方針。

 判決によると、蜂谷被告は01年1月、焼津市上空を上昇中の日航907便と水平飛行中の同958便が急接近した際、誤って907便に降下を指示し、両機を異常接近させた。監督していた籾井被告も間違いに気付かず、衝突回避のため急降下した907便の乗客57人にけがをさせた。

 判決はまず、「2人が958便を降下させる管制指示をしていれば、事故は起こりえなかった」と指摘。管制ミスと事故の因果関係を認め、「極めて危険な管制指示で、刑法上の注意義務に違反することは明らか」と述べた。

 1審判決は、管制ミスの後、907便の機長が衝突防止装置(TCAS)に従わずに降下したことなど複数の要因が事故につながった点を考慮し、「管制官の誤った指示が直接の事故原因とはいえない」としたが、この日の判決は「誤った指示が機長の急降下を余儀なくさせた」と認定した。

 一方で、判決は「当時の管制システムには、管制官の人為ミスを事故に結びつけないようにする観点から、不備があったことは否めない」と述べた。
最終更新:4月11日15時35分

ちなみに、この事故のあらましはこちら。wikipedia「ヒューマンエラー」の頁より。

日本航空機ニアミス事故

2001年1月31日に静岡県焼津市沖の駿河湾上空で起こったニアミスに起因した事故は、航空局の管制官が2機の航空機を同時に管制しようとした際、誤って互いの便名を逆に読み上げたことから混乱が発生した。安全距離が保たれるべき2機の当該機が約10メートルの距離まで異常接近し、あわや衝突という事態に陥ったものである。

この事故を起こした管制官は、レーダー画面上に表示された「907」および「958」という便番号をずっと目で追っていたにも関わらず、ある瞬間、突然この2つの番号を逆に読み始め、事故が起こるまでの数分間、言い間違いにまったく気づかなかった。

当該機のコンピューターは、他機の異常接近を知らせる警報装置(空中衝突防止装置 通称:TCAS)が正常に働いていたが、当時の航空運用マニュアルは「コンピューターと人間の指示に矛盾がある場合、後者に従う」と規定されていたこともあり、機長はそのマニュアルに正しく従うことで、結果として航空機を危険な状態へと導いてしまった。

原因

事故の原因は、管制職という仕事がただでさえ激務であるのに加え、その日はたまたまOJT中の職員を従えていたことから疲労が蓄積したためとされた。そしてそれは、安全運行上許されないものであるにも関わらず、ある程度以上の社会経験を積んでいれば誰もが経験する、あまりにも人間臭いミスであったため、のちに「事故の原因はヒューマンエラーであった」との説明が補足されるようになった。

この事件は、「コンピューターは日常的に故障するものであり、人間の判断こそが正しい」という社会通念がもはや過去のものであることを明示した。その後、各航空会社は、運用マニュアルを「コンピューターと人間の指示に矛盾がある場合、前者に従う」と書き換えた。

「十分に注意していればミスは防げる」「罰をちらつかせることでミスは無くせる」といった精神論は、もはやファンタジーといってよかろう。人は必ず、ミスをする。
もちろん各人が注意することは必要であるが、事故を十分に調査・吟味し、そこにシステムエラーが存在しないか検討すること、言い換えれば「人のミスが被害につながらないシステム作り」が重要。その検討を行うのが、国土交通省の「航空・鉄道事故調査委員会」。


さてここで。
事の成り行き次第で自分が処罰される可能性がある場合、当事者は起こった出来事、思ったことを100%正直に話すだろうか?ぜひ、自らの身に当てはめて考えて頂きたい。ミスをするのも人間だし、都合の悪いことは必ず隠しておきたくなるのが人間というもの。

今回この管制官たちが有罪となった件は事故調査報告書の内容を元にしているわけであるが、「国際民間航空条約第13付属書に定める事故調査規程」では、
(1)事故調査の目的は「罪や責任を課することではなく、将来の事故防止」である。
(2)「罪や責任を課する司法上、行政上の手続きも、事故調査とは分離されるべき」

と定められており、事故調査報告書の目的外利用(たとえば処罰や訴訟などへの利用)は、飛行の安全を守るために禁じられている。言うまでもなく、罰や処分への恐れが隠蔽を生み、結果として再発防止を阻害するからである。

この件を事故調の報告をもとにして刑事で裁くこと自体、事故防止には逆行する愚行。今後似たような事例が起こった場合、当事者は自らをかばって真実を語らないかもしれない。そもそも、そんな危険な職務は避けるかもしれない。
当事者の処罰と引き換えに、飛行機が衝突するかもしれないシステムはなおざりになり得る…なんて、あまりにもナンセンスな話。


ぶつかったり落ちたりする飛行機に乗りたくはない自分的には、今回の有罪判決には非常に納得のいかないものを感じる。しかも、このような「処罰・処分を前提とした事故調査委員会」が、医療分野でも設立が検討されている。(前回のエントリ:http://d.hatena.ne.jp/takuzo1213/20080407/p1参照)
不当な訴訟・逮捕に遭うリスクを避けて過酷な現場から立ち去るという流れが最近の医療界で不動のものとなっているのはもはや周知のとおりだが、この事故調査委員会が成立してしまえば医療崩壊は不可避のものとなる恐れがある。

医療の安全を守るため、そして医療崩壊をこれ以上進めないためには、最低でも以下のことが必要と考える。
(1)事故調査委員会を処罰とセットにせず、真相究明の妨げとならないようにすること
(2)トンデモな民事訴訟を避けるために、事故調での公平な結論を民事訴訟に反映させること

前回と同じ繰り返しになるのだが、この問題について厚労省パブリックコメントを募集しているとのこと。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=495080001&OBJCD=&GROUP=

投稿フォームへの入力で、簡単に厚労省にメールを送れます。
医療崩壊に心を痛めている貴方、ちょっと考えてみませんか。