国に抗うのは無駄か

診療報酬引き下げへ=来年度予算で財務省方針
 財務省は30日、2008年度の予算編成で、医師の給与などとして医療機関に支払う診療報酬を削減する方針を固めた。医療機関側は厳しい現場の実態を挙げて増額を求めているが、同省は「医師の給与は依然高く、業務の合理化余地はある」と判断した。薬価部分を含め3.16%となった前回並みの削減幅を念頭に、厚生労働省や与党と調整に入る。
 財務省によると、06年度の医療費は33兆円。このうち国・地方の公費負担は11.2兆円と、3分の1を占める。制度改正を行わなければ、高齢化に伴い医療費は毎年3〜4%増え続け、25年度には56兆円に膨らむ見込みだ。

 国策としての医師不足、医療費削減のために、日本の医療の土台はガタガタになってきている。最近になり特に産婦人科・小児科での医師不足がようやくながらクローズアップされているが、医師不足はどの科にも、どの地域にも共通する問題。やっと医師の定員だけは増やす政策に転換したようだが、今回のこのニュース。 2006年のデータでは病院の43%が赤字で、特に「自治体立」では実に全体の92.73%(05年度は89.28%)に達しているほか、「国立」69.29%(同66.14%)、「公的」58.90%(同45.89%)となっている惨状だというのに、診療報酬(国が決めた医療の公定価格)を削る方針は、全く変えるつもりがない模様。

 いま医学部の入学定員を増やしたところで、実際使い物になるのは学生期間の6年に加え、修行を積む約10年を足して軽く十数年後。そしてその頃には医師が足りて問題が解決されるかといえば、さにあらず。医学部を卒業したての医師というものは、到底一人では使い物にならない。現場で指導を受け、経験を積みながら一人前の医師に育っていくのだ。
 だが経験を積んだ、指導する立場にあるはずの医師が過酷な現状に耐えかねて現場を去り始めている今、6年以上後まで十分な指導医が現場に残っているかは非常に疑問。結果として現場には「親鳥を失ったヒナ大量発生」ということになりかねない。それを防ぐためには、「現場から医師が逃げ出す現状」をどうにかするしかない。
 医師はすぐに増やせないのだから、今いる人員の負担を減らして有効に使う手だてが必要。ならば専門的な仕事とは離れた書類書きなどをほかに任せるなど、少しでも負担を減らす努力が必要。医師という貴重な専門職に不毛な雑用をさせるのは、無駄以外の何物でもない。
 だがそのためには、そういった人々を雇うための新たなコストが必要。…というわけで、この期に及んで医療費を削減というのがいかに現状を無視した方針であるかはお分かりいただけるだろうか?

 さらに言えば上で引用したニュースの「医師の給与などとして医療機関に支払う診療報酬」という表現はかなり悪意的で、情報操作の臭いを感じる。あくまで診療報酬は病院に入る金で、普通の勤務医であればいくら治療しようが検査しようが自らの給与に反映されることはない。それに「医師の給与は依然高く」って。。。ぶっちゃけ偏差値70前後の難関をくぐって国家試験にも通って、多くの医師は労働基準法なんて関係ない過労死レベルの残業時間で。多目の給料貰っちゃおかしいのか?それでも大手マスコミよりは安かったりするし、他の先進国の医師の給料からは話にならないほど低いわけだが。

…と、つらつら書いてきたが現在の方針を考えると、医療は崩壊させてもよいと政府は考えているのかな、と思ってしまう。
 何も自分たちの給料を上げてほしいというのではない。国が勝手に低く抑えている”診療報酬”が、現状の医療を維持するには低すぎるという話なのである。