その覚悟はあるのか

まずは朝日新聞の記事の引用から。

ネット掲示板で妊婦遺族を中傷、医師に科料9千円命令
2007年10月01日
 奈良県大淀町の病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、計19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した妊婦(当時32)の診療情報がインターネット上に流出した問題をめぐり、ネット上で遺族を中傷したとして、奈良県警横浜市の医師を侮辱容疑で書類送検していたことがわかった。奈良区検が略式起訴し、奈良簡裁は9月21日付で、科料9千円の略式命令を出した。
 命令によると、医師は昨年10月、勤務先のパソコンを使って情報流出が判明した医師専用の掲示板に接続。「妊娠したら健全な児が生まれ、脳出血を生じた母体も助かると思っているこの夫には妻を妊娠させる資格はない」などと、遺族を中傷する書き込みをした。この問題では、遺族が被疑者不詳のまま侮辱容疑で告訴していた。

今回問題となったらしい、”妊娠したら健全な児が生まれ、脳出血を生じた母体も助かると思っているこの夫には妻を妊娠させる資格はない”というフレーズには激しく同意。妊娠・出産は100%安全なものではない。子供を作る可能性がある行為は、非業の死の可能性も含めて相手の人生を全て背負い込む覚悟がなければしてはならないことなのだ、本来。確かに厳しい表現ではあるが、別段おかしいことを主張しているとは思えない。
産科医たちの努力によりこの国は世界トップレベルの妊産婦死亡率の低さを誇るようになったが、それゆえに「安全を当然のものと思う」人間が増え、不当な訴訟すら濫発されている現状は皮肉なものだ。

またここで、毎日新聞のニュースを引用。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071001-00000039-mai-soci

<ネット流出>掲示板に書き込み、侮辱容疑で医師を書類送検 10月1日15時3分配信 毎日新聞
 奈良県大淀町大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、19病院で転送を断られた末に死亡した高崎実香さん(当時32歳)=同県五條市=の診療情報がインターネット上に流出した問題で、流出した医師専用掲示板に実香さんの夫晋輔さん(25)の名誉を傷つける書き込みをしたとして、奈良県警が東日本在住の医師を、刑法の侮辱容疑で奈良地検書類送検したことが1日、分かった。県警は診療情報の流出についても慎重に捜査している。
 県警などによると、医師は、実香さんの死亡が報道された昨年10月、医師専用掲示板「m3.com Community」に、晋輔さんを中傷する内容の書き込みをした疑い。
 掲示板はソニーグループの「ソネット・エムスリー」(本社・東京都港区)が運営する医療専門サイト内に、医師同士の率直な意見交換の場として設置された。医師会員数は今年3月末の時点で、約14万6000人にのぼる。国内最大級の医師専用インターネット掲示板で、書き込みの閲覧人数も多く、県警は晋輔さんに対する医師の中傷が不特定多数に広まったと判断したとみられる。
 この掲示板を巡っては、運営会社が今年5月、利用規約に反する中傷などの書き込みがあったとして、掲示板を一時閉鎖した。同社は「全投稿のチェックシステムなど改善策を整えた」として、「Doctors Community」に掲示板の名称を変えて再開した。
 掲示板には、実香さんの病歴情報、診断内容の詳細、看護記録、医師と遺族のやり取りなどが書き込まれたことが判明している。診療情報の流出を受けて、実香さんの遺族は今年4月、県警に刑事告訴する方針を明らかにしていた。

”侮辱”の書き込みと”診療情報の流出”は関係ない問題のはずだが、敢えて絡めて書くことで医師=悪人との印象操作を行っているようにさえ思える。しかしそうした「情報の流出」によって大淀病院の医師の対応に問題がなかったことが明らかになったこと、またそういう”不当”な手段によらなければマスコミのペンの暴力に対抗することはできなかった、いわば手詰まりの状態であったことは知っておくべきだろう。

マスコミがこの件のカルテそのものを電波や紙面に載せて、不特定大多数に発信しても罪には問われなかった。しかし医師が同じカルテの情報を、クローズドな場であるはずの医師専用掲示板に投げて問題提起すれば罪になりかねない。
「悪法もまた法」は事実ではあるが、さても難儀な話である。