0.06%の侵襲

3/5000=0.06%。まずこの数字を念頭において頂きたい。
賢明な読者なら予想が付いてしまうかもしれないが、今回はこの記事。

採血でも同意書得ず 神戸市立病院、肝炎患者から
 神戸市立医療センター西市民病院(神戸市長田区)の副院長(当時)の医師が、計9人のC型慢性肝炎患者に対し、研究のために同意書なしで必要量以上の採血をしていたことがわかった。文書での同意を定めた厚生労働省などの倫理指針に違反している。同センター中央市民病院(同市中央区)の医師が乳がん患者に対して同意書なしで臨床試験をしていたことが7月末に発覚したため、市が調査していた。市は患者や家族に謝罪し、両方のケースについて医師の処分を検討する。
 市によると、消化器内科の医師の副院長が06年度、C型慢性肝炎患者計10人を対象に、2種類の治療薬の効果を調べる疫学研究を実施。データを得るため、治療で採血する際、複数回にわたって必要量より約3ミリリットル多く採血した。
 厚労省文部科学省が02年に策定した「疫学研究に関する倫理指針」は、採血などの場合、原則として文書で説明し、同意書を得ることが必要としているが、10人のうち同意書がそろっていたのは1人だけだった。副院長は調査に対し「患者には口頭で多く採血をすることを説明した」と話したという。
 市は7月下旬以降、中央市民病院、西市民病院、西神戸医療センター(同市西区)の3施設で、04年度以降に実施された計1103例の臨床研究について同意書の有無などを調査。厚労省などの倫理指針に反しないものの、院内規定に反して、同意書を得ずに、匿名の診療情報を統計用データとして院外に報告したケースが25症例あることも分かったという。

…どうも同意書を作成しなかったことが、「疫学研究に関する倫理指針」に抵触したと問題となっているようだ。該当部分を抜き出してみる。

(1) 人体から採取された試料を用いる場合
試料の採取が侵襲性を有する場合(採血の場合等をいう。以下同じ。)
 文書により説明し文書により同意を受ける方法により、研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。
イ 試料の採取が侵襲性を有しない場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。この場合において、文書により説明し文書により同意を受ける必要はないが、研究者等は、説明の内容及び受けた同意に関する記録を作成しなければならない。

ここで先の記事に戻ると、

治療で採血する際、複数回にわたって必要量より約3ミリリットル多く採血した。

…非常に微妙。というのは、「ア」の項は例として採血が挙げられているが、その趣旨は「侵襲性の有無」にあると考えられるからだ。神戸市立医療センター西市民病院と言えば、350床を越える大病院。当然ながら採血にはふつう真空採血管が用いられているはず。3mlの血液を余分に得るため新たに針を刺し直す必要はなく、大き目の採血管を使うか採血管を1本つなぎ直すかの一手間だけだろう。研究目的のための追加侵襲というのは、大体の平均血液量である約5000ml中の3mlに過ぎないとも考えられる。
確かに3mlの血液採集は侵襲が全くないとは言えないだろうが、ほぼ誤差の範疇。口頭では同意が得られているようだし、それを文書に残すかどうかは、「解釈の相違」と言ってしまっては言いすぎだろうか?
どうも先に挙げた規定は「研究目的のためだけに針を刺して痛い思いをさせるんなら、同意書取らなくちゃダメよ」という意味合いのような気がしてならないのだが、記事だけ読んだ人は「勝手に余計に血を抜くなんて悪い医者だぜ!」ぐらいにしか思わないんだろうな、やっぱり。