医療事故死届け出を義務化、究明組織の素案まとまる

 医療版の事故調査委員会の新設を検討している厚生労働省は、医療事故による死亡事例の届け出の義務化などを盛り込んだ素案をまとめた。

 医療事故死に関し、新組織が一元的に原因究明にあたることを念頭に置いたもので、この素案をたたき台に、来月設置される検討会が本格的な議論をスタートさせ、2010年度の新制度開始を目指す。

 新しい制度は、診療行為中に患者が予期しない形で死亡した事例について、調査組織が解剖や診療録(カルテ)の精査などにより原因を調べる仕組み。

 素案によると、医師と法律家が調査結果を評価した上で、報告書を医療機関と患者の遺族の双方に提供。医師に過失があると認められた場合は、厚労省が医師の業務停止などの行政処分を速やかに行う。該当する死亡事例については、医療機関に届け出を義務づける方針で、届け出を怠った場合の罰則も検討する。

 現在、死因究明を目的とした届け出制度は設けられていない。医師法21条に基づき、医療事故による死亡事例が「異状死」として警察に届けられるケースは多いが、捜査を目的としているため、迅速な死因究明や再発防止には必ずしも結びついていないのが実情だ。

 これに対し、新制度導入後は、届け出の義務化を前提に調査組織が一元的に原因究明を担当し、暴行や毒物使用の形跡があったり、交通事故が疑われたりする場合について警察に届け出るという役割分担案が、同省内で検討されている。

 また、調査組織には高度な中立性が求められることから、公益法人としたり学会に置いたりするのではなく、厚労省都道府県に設置するか、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会のような委員会組織にする案を軸に検討を進める。

(2007年3月8日3時13分 読売新聞)


この期に及んで医療を締め付けるなんて!…という反発をついしたくなりそうだが。

ただこれは、いわゆる第三者機関により医療事故を調査・検討するためのシステム作りということ。現在の裁判は医学的知識のない司直に最終的な判断を委ねざるを得ず、時としてトンデモ判決となってしまうことに対して医師からの不満が強かった。医学的により公平な判断が期待できそうな、第三者機関の創設自体は歓迎すべきことと思われる。

少し引っかかるのは、「医療事故による死亡事例の届け出の義務化」ということ。正確にはその可能性がある死亡事例の届け出ということになるだろうが、あの大野病院事件でも「異状死体の届け出義務違反」を問題とされている。どこまでを「予期しない形で死亡」に含めるかの基準作り、線引きがちゃんとできるんだろうか?届け出なかった場合の罰則が重すぎれば、事故と思っていなかった例について”不当”な処罰を受けることになりうる。かといって罰則がなければ有名無実の第三者機関ということになりかねないわけで、必ず届け出をさせるための落としどころが難しそうだ。

また航空・鉄道事故調査委員会の場合では「事故の再発防止や、安全性の向上、関係機関などに勧告や建議を行なうこと」が目的で、関係者の責任を問わず公正・中立の立場を取るとしている。(Wikipedia:航空・鉄道事故調査委員会の頁を参照。)
しかし今回の制度では、調査および処分がワンセットとなっているようなのが気にかかる。
航空・鉄道事故調でミソなのは「責任を問わない」というところ。だからこそ処分を恐れずに正直にものが言え、結果として事故の防止に有効な論議ができるのだ。
そこをないがしろにしては「再発防止」も画にかいた餅ということになりかねない。


色々と詰めていかなければならない面はあるにせよ、今後の動向に期待したいところだ。